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【新・関西笑談】太棹に情を込めて(3)文楽三味線 野澤錦糸さん(産経新聞)

 ■ときに戦い、時に合わせ 太夫さんと一つの世界を作ってゆく。 

 --錦糸さんは本公演では毎回、人間国宝の竹本住大夫師匠の三味線を弾いています。平成7年からですから今年でもう16年目。住大夫師匠は85歳。錦糸さんは52歳。キャリアも年齢も随分違うのに、長くコンビを組んでいるんですね

 錦糸 一般の方から見たらなんで?と思われるでしょうね。でもこれが文楽の太夫と三味線の相性というか、不思議なところ。文楽には歴史的に見てもキャリアの違うコンビの例がすごく多いんですよ。

 --同じ年代のコンビだとお互いに我が出て、うまくいかないこともあると伺ったことがあります

 錦糸 太夫と三味線の相性というのは繊細で難しいものなんですよ。言葉を語る太夫が主なんですが、三味線もいろんな役割がある。この関係は夫婦に例えられたり、野球のピッチャーとキャッチャーに例えられたりしますが、僕は太夫がピッチャー、三味線がキャッチャーというのが一番当たっているように思います。キャッチャーの三味線がサインを出してピッチャーの太夫はその通り投げたり、ときにうまく首を振ったり。太夫からもサインが出ますしね。

 --どんなふうにサインを出すのですか

 錦糸 文楽の三味線というのは伴奏ではないんです。語りに合わせているだけではだめで、ときには太夫さんの語りと戦い、ときには合わせ、二人で一つの世界を作り上げてゆくわけです。

 --住大夫師匠の三味線を勤めることになったきっかけは

 錦糸 それまで師匠の三味線を弾いておられた先代の鶴澤燕三師匠が舞台で本番中に倒れられて、その翌年、師匠から「弾いてくれるか」とおっしゃっていただいたんです。それで、「僕でいいんですか」と。それからずっと勤めさせていただいています。

 --当時、文楽劇場の楽屋で錦糸さんとすれ違ったときのこと、覚えています。すごく肩がとがって見えました。まだ30代後半でしたでしょ。どれほどのプレッシャーかと、思わずこちらまで身震いしたほどでした

 錦糸 平社員がいきなり社長とやるようなものでしたからね。

 --それから毎公演、一番の聴かせどころである「切場」を勤めていらっしゃいます

 錦糸 住大夫師匠の隣で三味線を弾かせていただいていると、師匠の語りに純粋に感動することがよくあるんですよ。たとえばね、本音を言うと、一番僕らがやりづらいのは、学校から無理やり連れてこられた学生さんの団体。ザワザワしてるんですよ。でもこっちはいい加減な演奏はできない。一生懸命やりますよ。するとね、演奏が終わったとき、学生さんの何人かが席からぐっと身を乗り出してバーッと拍手してくれるんです。これ、一番うれしい。一生懸命やったら何かは絶対伝わる。これも住大夫師匠に教えていただきました。

 --お客さんの反応は感じられるものなんですね

 錦糸 僕らの座ってる床がぐるっと回って引っ込むときの反応でわかります。本当にいいときって、回る寸前まで拍手が来ないときもある。

 --みなさん、感じた思いをいったん心の中に落としているんじゃないでしょうか

 錦糸 そうそう、何が幸せかって、そういう現場にいられること。これに尽きますよ。(聞き手 亀岡典子)

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